Atlas後のAIブラウザ市場を読む

10月21日、OpenAIはAtlasブラウザを発表しました。Chrome以降しばらく大きな動きが少なかったこの領域が、再び一気に熱を帯びています。

私はHuBrowser創業者の胡一涛です。元Googleエンジニアで、10年以上にわたりプライバシー重視のブラウザを作ってきました。2024年にはAndroid向けAIブラウザをリリースしました。この記事では、AIブラウザとは何か、どんな実装アプローチがあるのか、そして市場がどう動き始めているのかを、実務者の視点で手短に整理します。

AIブラウザとは何か

  • 自動操作: ユーザーの意図にもとづいて、クリック、フォーム入力、Webサイトやアプリの移動を実行する
  • コンテンツ処理: ページ要約、質問応答、文章生成を行う

なぜ今なのか。理由は大きく3つあります。

  • 入口を握れる: ユーザーに近い場所にあり、収益化までつなげやすい
  • 文脈を持てる: 行動履歴、閲覧履歴、目的など、チャット単体より豊かなコンテキストを扱える
  • データ基盤になる: AIの学習にはデータが要る。公開データが頭打ちになるなかで、次の焦点は個人の文脈データに移っている

いま参入しているのは次のようなプレイヤーです。

  • 大手: Chrome、Edge、OpenAI Atlas、Perplexity Comet
  • スタートアップ: 公開済み製品はおよそ7〜8社(私たちを含む)
  • AIによるQ&Aまで対応できるツール: 数十種類

技術アプローチは5つ

どれもChromiumを土台にしていますが、作り方はかなり違います。アプリ層の製品は立ち上げやすい一方で、本当にネイティブなAIブラウザを実現できるのは、やはりシステム層まで踏み込んだ統合です。

  • CDP自動化スクリプト — OpenAI Operator、Browser Use、Browserbase
    • 長所: 試作が速い
    • 短所: 検知されやすく、効率が悪く、統合も浅い
  • 既成のChromiumラッパー(Electron/Tauri)— Fellou、Arc
    • 長所: 短期間で出しやすい
    • 短所: ブラウザ機能が不完全になりやすく、UXも制約される
  • ブラウザ拡張 — HuBrowser Extension
    • 長所: 軽量で、プライバシー面の見通しがよい
    • 短所: ホスト環境に依存し、速度や自動化には限界がある
  • 拡張版Chromium — Chrome、Edge、Atlas、Comet
    • 長所: バランスがよい
    • 短所: コアを深く変えない限り、拡張機能との差が出にくい
  • 拡張版ChromiumOS — HuBrowser
    • 長所: システムレベルで統合でき、クロスプラットフォームで一貫し、効率も高く、不正利用にも強い
    • 短所: 極めて難しく、長期的なカーネル知識が必要

浅いラッパーに共通する構造的な問題もあります。

  • ログインとリスク制御: 自動化の挙動が追加認証を呼びやすく、UXが分断される。実際には再ログインが何度も必要になり、日常的な道具になりにくい
  • モバイルの制約: システムフックなしではモバイル自動化が不安定で、モバイルAIブラウザが少ない理由でもある
  • 速度と精度: 構造化データを扱えないと操作が遅くなる。単純なフォームでも、CDPでは15〜30秒、システムレベルでは3〜5秒まで縮められる
  • コスト: 文脈の再投入や試行錯誤でトークン消費が膨らみやすく、1タスクで数万トークンに達することもあり、スケールしにくい

ブラウザエンジン開発が難しい理由

ブラウザのコアに実際に関わったエンジニアは、世界でも1万人に満たない規模でしょう。しかも多くは1〜2モジュールの担当にとどまります。アーキテクチャを変えるには、広さと深さの両方が必要です。GoogleやMicrosoftでさえ、この10年でカーネル層の大きな突破は多くありません。OpenAIがChromeの主要設計者を採用していても、AtlasやCometは現時点ではサイドバーやアシスタント層に重心があるように見えます。この難しさこそが、私たちのような小さなチームでも巨人と戦えると考える理由です。

私たちのアプローチ

2023年の検証で、「AIがクリックしてくれる体験」は反復作業に確かな効果がある一方、アプリ層の工夫だけでは限界があると分かりました。耐不正性は弱く、速度も遅く、コストも高い。そこで私たちは、AI利用を前提にシステムの中核から作っています。

なぜ最初にAndroidを出したのか。

  • 技術的な高地だから: Androidブラウザは他プラットフォームに移植しやすいが、その逆は難しい。逆方向だとコードと機能の約90%を失う
  • システム接続ができるから: Android上でC++を貫通させ、Webアプリ、ネイティブアプリ、拡張機能、スクリプトをまとめて自動化できる
  • 市場が大きいから: 世界ではAndroidが優勢で、十分に収益化を狙える

デスクトップとiOSについて。

  • デスクトップ: オープンソースのHuBrowser Extensionを提供している。コードと通信内容が見えやすく、個人データは収集しない。手元のモデルをつないでローカル運用することもできる
  • iOS: エコシステムが閉じており、自動化APIも政策リスクが高いため、今は優先していない

ビジネスの現在地

主な収益源はサブスクリプションと広告、次点がデータサービスです。

  • 大手は既存製品にAIを組み込み、コストを分散しやすい
  • スタートアップは、用途を絞るか、より深い技術差別化で勝ち筋を作る
  • セグメントは、デスクトップ、モバイル、クラウドに加え、ToC、ToB、ToDev、さらにモデルやハードウェアとの連携に分かれる
  • 競争状況としては、デスクトップが最も混み合い、モバイルは技術障壁の高さから相対的に空いている
  • 機会は大きい。ユーザーは50億人超で、AI化が5〜10%進むだけでも十分大きい。重要なのは「使える」を超えて「毎日使う」に届くこと

プライバシーと制御

地域制限、不透明な「センシティブ」判定、「AIおすすめ」と称した抱き合わせ、そして「UX改善」の名目でのデータ送信には注意が必要です。

本質的な緊張関係もあります。エージェントのリスクをどこまで見える化するか、支払い・削除・投稿の確認をどこまで求めるか、プライバシーと機能性をどう両立するか、データドリブンな事業と長期的な信頼をどう両立するか。AIの判断が増えるほど、説明責任は重くなります。

まとめ

転換点は、機能一覧の多さではありません。AIが日々のブラウジングに溶け込み、なくては困る存在になるほどシステムと深く結びつけられるかどうかです。そのためには、時間、カーネル層の厚み、そして執拗なまでのUX改善が要ります。

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詳しくはこちら: hubrowser.com

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